静かな退職という働き方

静かな退職という働き方

海老原嗣生

PHP研究所

出世しない 残業しない それでもいい時代へ

「静かな退職」――アメリカのキャリアコーチが発信し始めた「Quiet Quitting」の和訳で、企業を辞めるつもりはないものの、出世を目指してがむしゃらに働きはせず、最低限やるべき業務をやるだけの状態である。「働いてはいるけれど、積極的に仕事の意義を見出していない」のだから、退職と同じという意味で「静かな退職」なのだ。  ・言われた仕事はやるが、会社への過剰な奉仕はしたくない。  ・社内の面倒くさい付き合いは可能な限り断る。  ・上司や顧客の不合理な要望は受け入れない。  ・残業は最小限にとどめ、有給休暇もしっかり取る。  こんな社員に対して、旧来の働き方に慣れたミドルは納得がいかず、軋轢が増えていると言われる。会社へのエンゲージメントが下がれば、生産性が下がり、会社としての目標数値の達成もおぼつかなくなるから当然である。  そこで著者は、「静かな退職」が生まれた社会の構造変化を解説するとともに、管理職、企業側はどのように対処すればよいのかを述べる。また「静かな退職」を選択したビジネスパーソンの行動指針、収入を含めたライフプランを提案する。

海老原嗣生[えびはら・つぐお] サッチモ代表社員。大正大学表現学部客員教授。 1964年東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計などに携わる。その後、リクルートワークス研究所にて雑誌「Works」編集長を務め、2008年にHRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。『エンゼルバンク─ドラゴン桜外伝』(「モーニング」連載、テレビ朝日系でドラマ化)の主人公、海老沢康生のモデルでもある。人材・経営誌「HRmics」編集長、リクルートキャリア フェロー(特別研究員)。『仕事をしたつもり』(星海社新書)など著書多数。

第1章日本にはなぜ「忙しい毎日」が蔓延るのか 昨今、時折見かける職場風景 欧州の「標準労働」は、日本ならクビになるレベル 手を抜けば抜くほど「労働生産性」は上がる ジャパニーズ・クオリティという揶揄 なぜ日本のスナック菓子メーカーは毎年40もの新作を出すのか 業績に関係ない努力が信奉される異常 私たちは「何かあったら」「ひょっとすると」で忙しくしている 第2章欧米では「静かな退職」こそ標準という現実 私たちは、あまりにも世界を知らない 欧州では従業員とは「外からやって来た労働供給契約者」に過ぎない 欧州エリートは半端ない学歴 欧州で一般大卒者は「単なる労働力」 公的な資格制度で学歴と役職が結びついている欧州 「フランスに生まれなければ良かった」と言う人たち 勤続20年を超えても、初任給と大差ない年収 残業しない理由は「お腹が空くから」 米国でも「アップ・オア・アウト」は一部エリートの話 鼎談全員一律で階段を上る日本の「異常さ」 釣り銭を投げつける? 休憩時間にマリファナ! エリート層は、やはりよく働く 業績には厳しいが、無形のプレッシャーはない オモテナシさえ、見える化して課金 昇進して短命に終わるのも、ステイして楽に長くも「自分次第」 全員一律のキャリアではなく、選択肢から自分で選ぶ 第3章「忙しい毎日」が拡大再生産される仕組み 誰もが長期勤続で大きく昇給する日本 日本は「ポストが無限大に発生する」仕組み 昇級するからキャリアの危機が訪れる 欧米ではシニアは歓迎され、若者が苦しむ 新卒未経験者など職にありつけない欧州 地獄の企業実習を経ても職にありつけない欧州 新卒就職が「忙しい毎日」の入り口となる 年次管理により「僅少差異の法則」が効力を発揮する 日本型賞与も「忙しい毎日」の保全ツール 二重の意味で日本の残業代は安い 日本型の強固なシステムは、長年その外壁さえも揺るがなかった 第4章「忙しい毎日」を崩した伏兵 ほんのここ数年、異常な速さで職場が変わっている 女性の社会進出が「忙しい毎日」を揺るがし始めた 総合職女性という変数は2000年頃から増え始めた 女子のキャリアは4R→肉食系女子→一般化 女性が増えて10年経った頃、企業は葛藤し始める 2010年代前半に反動が起きた理由 「忙しい毎日」は女性に4つの選択肢を強いた 本気で女性活躍を考えねば経営が成り立たなくなった2010年代後半 ようやく「忙しい毎日」に異分子が市民権を得た 第5章「静かな退職」を全うするための仕事術 「静かな退職者」とて重いお荷物であってはならない マナーが良ければ、たいていのことは許される 「反論するエネルギー」ほど無駄なことはない 明日のための投資より、今日の心証点稼ぎ やらなくて良いことは潔くやめる プラスを重ねるよりもマイナスの排除を 評価で下位2割にだけは絶対に入らない 厄介な仕事は蜜の味 副業の芽を作ろう とにかく外注企業とは仲良くすべき 営業なら異動のたびに「親密な顧客」を1つ作る あんがい後輩は、丁寧な指導より「静かな指導」を望む 後輩指導「4つの鉄則」 WhatではなくWayを基本にする 面倒な仕事を後輩に渡すコツ チーム活動では「2、3番手」で楽をする 合理的行動と心証点稼ぎで「多忙」を装う 第6章「静かな退職者」の生活設計 「静かな退職者」の構成要件 「静かな退職者」の年収レベルを探る 独身者はなぜ老後に困るのか? 4〜6月の残業を抑えれば、手取りは年8万円増える 19万円の支払いで27万円貯蓄する秘技 NISAは所得税の節税にはならない 余裕がないからこそ結婚する 「結婚=生活の合理化」を成り立たせるイクメン・カジメン 女性も「男に食わせてもらう」意識を捨てる 「静かな退職者」にキャリアの危機は訪れない 副業は残業割り増しを超えなければ意味がない 年収65万円の副業は、実質120万円にあたる 時給2500円の副業を見つける方法 老後の生活設計はWPPが基本 個人年金と副業で70歳まで食いつなげば、バラ色の老後 第7章「静かな退職」で企業経営は格段に進歩する きちんと成果を求める代わりに無償の奉仕からは解放する 要らないミドル・シニア社員問題 ヒラ社員でも高すぎるミドルの年収 「家族を一人で食わせる」型の年功給は、もうなじまない 「重荷」と「見返り」の両方をカットすべきだ ベテランを強制退社させ、未熟な新卒を大量採用する矛盾 将来性など不要になれば中途採用は格段に楽になる 役職定年の導入期は「喜劇」が随所で起きた 次の雇用延長はこのままなら「悲劇」を生む ラジアーの定理も「静かな退職」を支持する 「静かな退職」コースを軟着陸させるには 「静かな退職者」に甘えるのも、彼らを甘やかすのもダメ 日本型雇用と欧米型雇用の絶妙な接ぎ木 第8章政策からも「忙しい毎日」を抜き去る 「忙しい毎日」を是とした政策は全て骨折り損だ 「リスキリング」も「人生100年時代」も忙しい毎日が基本 「人への投資」が無駄に終わった30年間 欧州における高生産性の裏側 高い給料と高い物価 男女共同参画と高齢者雇用には「静かな退職」が必須 高度プロフェッショナル人材制度は蜂の一刺し なぜ欧米ではエグゼンプションが成立するのか 高プロ制度の拡充点 「静かな退職者」の雇用保障はどうするか? 日本の労働政策はそれなりに頑張ってきた 流行ものへの寄り道はやめ、ぜひとも「静かな退職」を