ことば、身体、学び 「できるようになる」とはどういうことか

ことば、身体、学び 「できるようになる」とはどういうことか

為末大、今井むつみ

扶桑社

学びは発見だ 熟達は調整だ 言葉と身体で拓く道

ことばが世界をつくるのか。世界がことばをつくるのか。 元オリンピアンで著作も多く、「走る哲学者」とも呼ばれる為末大氏。 為末氏が現役時代から興味をもっていたというこの問いを、言語習得研究の第一人者である今井むつみ氏が受け止める。 私たちが意識せず使いこなしている「ことば」とは何だろうか。 「言語能力が高い」、「運動神経がいい」とはどういう状態を指すのだろうか。 スポーツでも言語の習得でも、繰り返しながらやさしいことから難しいことへ、段階をふんだ「学び」が必要になる。しかし、「学び」とは単なる知識の獲得ではなく、新しい知識を生み出す「発見と創造」こそが本質であると今井氏は言う。その究極のかたちを為末氏は、調整力の高さ、すなわち「熟達」と呼ぶ。 私たちはどのように学ぶのか、そこに身体がどのようにかかわってくるのか。 「ことばと身体」を専門にする話題のふたりが、異なる立場から「学び」にアプローチする。

為末大 1978年広島県生まれ。1993年、全日本中学校選手権100m・200mで2冠、ジュニアオリンピックでは当時の日本記録を更新。以降、インターハイ、国体、世界ジュニア選手権などで短距離の新記録をマーク。法政大学へ進み、日本学生選手権400mハードル3連覇。シドニー、アテネ、北京五輪に出場。世界選手権では2001年エドモントン大会にて3位に入り、トラック競技で日本人初のメダル(自己ベスト47秒89を記録)、2005年ヘルシンキ大会でも銅メダルを獲得。2010年8月には「一般社団法人アスリートソサエティ」を設立するなど、マイナースポーツ選手の自立支援にも尽力。2012年、現役引退を表明。 現在、アスリートソサエティ代表理事、R.project取締役、地元広島でランニングクラブ「CHASKI」を運営などのほか、講演、イベント、執筆、テレビのコメンテーターなど多方面でスポーツと社会についての活動を広げる。著書に『走る哲学』(扶桑社新書)、『禅とハードル』(共著、サンガ)など。 今井むつみ 1987年慶應義塾大学大学院社会学研究科に在学中、奨学金を得て渡米。1994年ノースウェスタン大学心理学部博士課程を修了、博士号(Ph.D)を得る。専門は、認知・言語発達心理学、言語心理学。2007年より慶應義塾大学環境情報学部教授。 著書に『ことばと思考』『学びとは何か-〈探求人〉になるために』『英語独習法』(すべて岩波新書)、『ことばの発達の謎を解く』(ちくまプリマー新書)など。共著に『言葉をおぼえるしくみ-母語から外国語まで』(ちくま学芸文庫)、『算数文章題が解けない子どもたち-ことば・思考の力と学力不振』(岩波書店)など。最新刊で秋田喜美氏との共著『言語の本質-ことばはどう生まれ、進化したか』(中公新書)は大きな話題となった。

ことば、身体からだ、学び もくじ はじめに 為末大 1章 ことばは世界をカテゴライズする [考]ことばは究極の編集行為 動きを引き出すためのことば 映像で確認することの問題点 受け手に合わせてことばを変える 選手にブレイクスルーをもたらすことば みぞおちから足が生えているように [問]ことばが世界をつくるのか、世界がことばをつくるのか? [解]子どもが、動詞学習が苦手な理由 動詞は目に見えない 馬が「歩く」姿と人が「歩く」姿は似ていない 「歩く」と「走る」の違い 赤はどこまで赤なのか 色を表すことばはいくつあるか ことばは世界をカテゴライズする オノマトペと動詞学習 2章 ことばと身体 [考]選手の調子を上げる音とリズム 「調子がいい」と錯覚すると、本当によくなる スポーツの世界では、身体の連動のイメージには音声が有効 [問]ことばと身体とは? [解]胎児はリズムからことばを学ぶ 赤ちゃんは生まれてすぐでも母語のリズムがわかる 「アンパンマン」から受けた啓示 オノマトペの特徴 言語の進化 音の模倣から「記号」へ ことばは文化の中へ埋め込まれていく 変わりゆくことば オノマトペを通じて日本語の体系を学ぶ 身体のないAIはことばを「わかる」か 言葉が身体につながるということ ことばのシステムを自分で構築する 抽象的な概念を理解できる理由 身体とことばの関係が研究されはじめたのは最近のこと 「大きい」と「小さい」は実は難しいことば 足がかりがつかみにくい数字の概念 3章 言語能力が高いとは何か [考]「確からしい」ことば 「ハードルの上で休んでいる選手」 ことばで自分を誘導する 多くの人の心に残ることば [問]言語能力が高いとはどういうことか [解]ことばとは ことばのもつ温度感 ことばのもつ抽象度の階層 概念が先か、言語が先か 言語能力とは、推論する力、状況判断、語彙力 「むかつく」しか知らない子どもたち 「英語がうまい」とはどういうことか ことばが「できる」「できない」とは 意外と気づかないコモングラウンド ことばの多義性に対処する 文章を頭の中で立体的に描く能力 メンタルモデルとは 読書とメンタルモデルの関係 64の前は65 日常的に使う言葉が意外と難しい 「読む」ということはいかにすごいことか 読書という氷山の下にあるもの 子ども時代の読み聞かせは親からの最大のプレゼント 「これだけ学べばあとは自分で応用できる」を学ぶ いつ、どのレベルで最適化するか 4章 熟達とは [考]運動神経の正体 技術の習得と修正能力 熟練者ほど緊張と弛緩の差が大きい アスリートは力の入れ加減で歩幅も変えられる シドニーオリンピックでのミス [問]熟達するというのは、調整力が高いということではないか [解]アウトプットに合わせた微調整 繰り返しの精度 メンタルモデルの柔軟性 野球選手はバドミントンもうまいか ことばが記憶をつなぎとめる スポーツ選手は賢いか賢くないか 意思決定とメンタルモデル コーチの役割 為末がコーチをつけなかった理由 自分が自分をどう扱うかに関心があった オリンピアンと金メダリストの違い 緊張を調整する 「変だ」ということに気づかない子どもたち 失敗から学べること 「できるようになる」とはどういうことか ことばの感度が高い子は応用力も高い 物語をもつ 言語の限界 5章 学びの過程は直線ではない [考]熟達の過程で行き詰まる時 学びの最初は、まず「無意識でできるようになる」こと 無意識でやっていたことを意識的に直す 局所だけに集中すると全体が見えない [問]伸び悩んだり、つまずいたりした時、どのようにして抜け出すか? 試行錯誤しすぎてもとの道を見失うことがある [解]学びはリニアではない 法則に気づくとできなくなることがある 考えはじめの谷 ランダムに試すか、経験にしたがって試すか 文化も包含した無意識の知識の固まり=スキーマ 自分のスキーマを疑う難しさ 「わかった」問題 知識の錯誤 3分の1と2分の1ではどちらが大きいか? 「知っているつもり」の危うさ 限界の突破 伸び悩みと抜け出し方 記憶は噓をつく 研究者は証言で不利になる? 感情が記憶を左右する 変化のスピード 高跳びの背面跳びは失敗から生まれた 当然の間違え方 思い込みからの脱却 早くわからせる方法と、将来伸びるやり方は矛盾する 効率化のリスクとポイント 「この本は信じられる」という勘 コスパ、タイパは本当に効率がいいか デジタルの落とし穴 情報処理を深くする 書き、話し、身体的に学ぶ アウトプットの角度 トップ選手を真似るとパフォーマンスが落ちる 自分で気づきに行くことの大切さ 学び方を学ぶ おわりに 今井むつみ